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はじまりのうた(かなりネタバレあり)

公開日: : 最終更新日:2021/02/14 ジョン・カーニー

はじまりのうた

ニューヨーク。音楽プロデューサーのダンは奥さんと別居し、たまに会う娘とも今ひとつ打ち解けられない。レーベルでも、ダンが手掛けたジシャンはここ何年も売れないと言われ、クビになってしまう。失意のダンは、夜にふらっとライブハウスに行く。

プロのミュージシャンとしてデビューした恋人デイブに裏切られ、失意のグレタは、友人のミュージシャンを頼る。彼に連れられライヴハウスに行くが、そこで歌うハメに。客席の反応は今ひとつだった。が、その場に居合わせたダンは、彼女の才能を見抜く。

ダンはグレタにデビューの話をもちかけるが、グレタはデモテープを持っていなかった。レーベルにはレコーディングに金は出せないと言われ、ダンはニューヨークの街中でのゲリラレコーディングすることを思い付く。

ONCE ダブリンの街角で』を監督した人による、最新作だ。『ONCE』がインディペンデントなら、今回はメジャー。ただ、夢を夢で終わらせず目標に転換せんとする姿勢、既に出来上がっているシステムにとらわれず自分らしさを貫く姿勢は、共通していると思う。

グレタを、ダンをマーク・ラファロが演じている。グレタの恋人デイブは、マルーン5のヴォーカルだそうだ。ワタシがキーラ・ナイトレイの作品をちゃんと観るのは、恐らく今回がはじめて。デイブの裏切りを曲を聴いただけで見抜き、ダンにも簡単に言いなりにならない、芯の強さを見せてくれる。

マーク・ラファロは、風貌がフレーミング・リップスのウェイン・コインに似ていて、序盤はまるでダメ男だが、別居のきっかけを明かしたり、ダンの力量を支持し協力してくれる人(ナールズ・バークレーのシーロー・グリーン)も出てきて、実は凄腕なのだと思わせてくれる。

圧巻は、ゲリラレコーディングの数々だ。路地裏でレコーディングしようとし、遊んでいる子供を最初は追い払おうとするが、結局巻き込んでコーラス参加させる。地下鉄の駅のホームでは、警備員に見つかり慌てて撤収する。ワシントンスクエアの門の真下、セントラルパーク湖のボートの上、と、いずれも臨場感に溢れている。

そのピークとなったのが、エンパイアステートビルをすぐ目の前にしたビルの屋上でのレコーディングだ。父ばかりでなく母親とも微妙な年頃の、ダンの娘もギターで参加した。グレタは、はじめて彼女に会ったときに同級生の男の子の惹き付け方や服のことなどをアドバイス。彼女も、父とも母とも違う大人の女性のことばとして、耳を傾けた。

彼女のギターはどちらかと言うとノイジーで、セミアコを基調とする、ポップなグレタの音楽性とは相容れないかと思われた。がしかし、これが不思議とマッチ。ダンはかつてはベーシストでもあったそうで、父娘共演も実現。レコーディングは、最高の形で締め括られた。

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