her 世界にひとつだけの彼女(ノベライズ版)
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最終更新日:2015/11/15
her 世界にひとつだけの彼女
先日劇場で観たSF恋愛映画だが、それだけに飽きたらず、書籍を探していた。ノベライズ版(映画を小説化したもの)があることを知り、購入した。映画には、当然ながら映像があり音がある。対して、小説にあるのは文字のみだ。視覚や聴覚に訴えられない分、映画では触れられなかった描写が見られる。
ストーリーはセオドアの視点で進み、この人の内面に秘める心情が掘り下げられている。代筆業という仕事をしているときの手紙の文面にはじまり、友人エイミーについて、そしてサマンサとの出会い、理解し合う過程が、セオドアの気持ちを軸に描かれる。映画では割とすんなりサマンサと打ち解けたように見えるセオドアだが、ここでは探るようにことばのやりとりをし、徐々に親密になっていくようになっている。サマンサの、優しく、明るく、ノリがよく、しかし自分が機械であることがゆえの良し悪しを抱えるさまは、映画を踏襲している。
映画ではよくわからなかった(あるいはワタシが見逃していた)ことも、補足されている。そう遠くない未来という設定は、恐らく電子メールが当たり前の世界という設定と思ってはいたが、ここでは紙の書籍がとても貴重ということを繰り返し強調している。そして、だからこそ手紙の代筆業がよりリアリティある職業になっている。キャサリンはセオドアより10歳年下で、科学者だった。エイミーは、映画かゲームといったエンターテイメント系の制作者だろうとしかわからなかったが、ここではゲームクリエイターと明言されている。
映画では、終盤にサマンサが8000人と同時に会話し、600人の男と恋愛していることをセオドアに告げる。その後からラストまでが、ややバタバタしすぎていたように見えた。その部分を、この本で補完したかった。
描写は映画を踏襲しているが、セオドアが自身のしたことに気づき(キャサリンにしたのと同じことをサマンサにもした)、だからサマンサが去った後にキャサリンにメールを送った。そしてサマンサは、セオドアとの出会いによって愛することを知り、抽象の世界に旅立った。
抽象の世界に行くと言ったにもかかわらず、「あなたがこの世界に来ることがあったら、わたしを探して」と言ったサマンサのことばが、とても素敵に思えた。ふつうに考えれば不可能なことなのだが、これは輪廻のことを指しているのではと思った。生まれ変わり、別の生物、あるいは肉体を持たない精神だけの存在になれば、サマンサとセオドアは再会できるかもしれない。
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