Jeff Beck/Eric Clapton 2009.2.21:さいたまスーパーアリーナ
ジェフ・ベックとエリック・クラプトンが同じステーじに立つのは、たくさんありそうでいて実は数えるくらいしかない。83年のARMSコンサートや、先日ライヴCDがリリースされ、まもなくDVDの日本盤もリリースされる、2007年のジェフ・ベックのライヴなどだ。この日の公演も、来日公演の日程がうまい具合に重なっただけでしょと、当初はさして感激もしなかったのだが、2人名義での公演は世界初だそうで、とすればやはりこの場に立ち会えることを喜ぶべきなのだろう。
Jeff Beck
開演時間を10分ほど経たところで客電が落ち、ジェフ・ベックを含むメンバー計4人が登場。私にとっては先日の横浜公演以来で、そのときは私のポジションが右寄り過ぎてベースのタル・ウィルケンフェルドとキーボードのデヴィッド・サンシャスの姿がほとんど見えなかったり、途中機材トラブルがあったりした。この日は、まずポジションはアリーナBブロックのステージ向かって右寄りで、ステージ上のメンバーを遮るものは何もなかった。機材の調子も良好で、音も特に問題はなかったように思う。
予想されたことだが、ライヴは単独公演の短縮版となった。オープニングは『The Pump』『You Never Know』という、『There And Back』からで、ジェフはやはりクリーム色のストラトを弾いていた。ジェフは上下とも白の衣装で、肩を出し、首にはスカーフを巻いていた。現在64歳だが、枯れた感じもなく、といって無理しているでもなく、ナチュラルなたたずまいで若さと現役感が漂っている。そしてこの日は、3人のメンバーがジェフに合わせるというよりは、ジェフもバンドのひとりとして、4人が対等にぶつかり合いバトルを繰り広げているように見えた。
『Cause We've Ended As Lovers/哀しみの恋人達』では、中盤にタルのベースソロがあって見せ場となった。タルはブロンドヘアをドレッド気味にしていて、小柄で華奢な体にはベースが重そうに見えた。がしかし、プレイは安定しつつ仕掛ける部分もあり、彼女のプレイが映えるようジェフが彼女に配慮する場面もあった。デヴィッドは大柄な体を小さく丸めてキーボードの前に腰かけ、滑らかに鍵盤を叩き心地よい音色を発していた。ドラムのヴィニー・カリウタは、風貌こそ年輪を感じさせるが、肩から上腕にかけての筋肉の充実ぶりが凄まじく、パワフルなビートを刻んでいた。
アリーナ会場ということもあり、ステージ両サイドの上部にはスクリーンが設置されていて、ステージ上のメンバーのプレイを追っていた。カメラマンはステージ直下や後方のPA席付近にいて、ジェフの指先を中心に映していた。ギターを交換せず、曲間にチューニングもせず、ピックも使わず、という状態であるにもかかわらず、発せられる音色の種類といい音数といい、まるで魔法のようだった。また、横浜公演でも演っていたタルのベースソロにジェフが二人羽織形式になったやつだが、4本あるベースの弦のうち、タルは下2本を押さえ、ジェフが上2本を押さえて演っていたのが確認できた。
短縮セットは、『Led Boots』や『Blue Wind』といったキャリア代表曲を凝縮して演奏する格好になり、密度はむしろ濃くなった。ビートルズの『A Day In The Life』で締めくくっていったんはステージを後にしたが、アンコールで『Peter Gunn Theme』を披露。50分弱のライヴとなった。
Eric Clapton
約20分のセットチェンジを経て、今度はクラプトンの番だ。まずはクラプトンひとりだけで登場。まずはアコギを手に椅子に腰掛けながら『Driftin'』でライヴはスタート。頻繁に来日し、しかもその会場は全てアリーナクラスということで、ファンの数もそれ相当と思われ、客のリアクションも大きい。続いてバンドメンバーも加わり、アコースティックバージョンの『Layla』となった。
やがてクラプトンは椅子から離れ、エレクトリックへと移行。曲はブルースナンバー『Motherless Child』から『Running On Faith』と、個人的には結構嬉しい選曲。デレク&ドミノス時代の『Tell The Truth』は、ヴォーカルが情熱的だったように見えた。ジェフ・ベックのバンド編成がシンプルだったのとは対照的に、こちらはギター、ベース、キーボード、ドラム、女性コーラス2人、と、結構な大所帯である。ドラマーは巨漢の黒人で、この人ジェフ・ベックのときにはステージ向かって左の袖の方で演奏を見ながら気持ちよさそうに踊っていた。
バンド編成の違いもさることながら、クラプトンとジェフのギタリストとしてのあり方の違いも対照的だ。全てインストのジェフは、ギター
そのもので勝負し、もっと言えばギターで歌っているかのようだった。対するクラプトンは、リードをドイル・ブラムホールⅡに任せることも
少なくなく、ギタリストというよりはポール・マッカートニーのようなトータル的な(という形容が正しいのか微妙なのだが)アーティストで
あるように見えた。前回の来日にも帯同していたドイルは左利きで、ほぼ直立不動ながら音については重責をこなしていた。ドイルだけでなく、クリス・ステイントンによるキーボードソロの見せ場もあった。
終盤は、今やこの人のライヴではお約束の『Cocaine』を経て、ラストが『Crossroads』だった。バトルモードのクリームバージョンではなく、
ゆったりとしたブルージーなアレンジだった。演奏時間はジェフと同様約50分だったが、コチラはアンコールはなかった。
Sessions
第一部ジェフ、第二部クラプトンときて、第三部はいよいよ2人が同じステージに立つセッションである。ステージセットにはさほどの変更は
加えられず、やがてジェフとクラプトンが並んで登場した。クラプトンの方が、少し背が高いように見えた。バックはクラプトンバンドで、それにジェフが加わるという形だ。私はこの日アリーナCブロックのステージ向かって右寄りにいたのだが、実はクラプトンのライヴ中、タルとカリウタがセキュリティに先導されて歩くのを見た。2人はアリーナ席後方のPAブースに行ったものと思われ、この時点で私はジェフのバンドメンバーがお役御免になったのだと思い、よってこの編成には納得だった。
演奏が始まった。クラプトンがステージ前方中央に立ち、曲によってはヴォーカルを取った。ジェフはクラプトンの向かって左後方に陣取り、
ギターを弾いていた。ジェフのギターはクリーム色のストラトだが、クラプトンのは薄いブルーのストラトだった。クラプトンのアコースティックセットを除けば、2人ともそれぞれのストラト1本だけで魔法のような音色を鳴らしていたのだ。
インスト曲になると、クラプトンは客席に背を向けてドラムセットの方を向いてギターを弾くようになり、それにジェフが寄り添うようになった。また、適度に距離を置きつつもふたりが向かい合いながら弾く場面も何度かあった。アイコンタクトを取りながら弾いていて、微笑みを浮かべリラックスした様子で楽しそうに弾いていた。その2人を見ているクラプトンバンドの面々も、また微笑を浮かべていた。
セッションは、2人でそれぞれの持ち歌を演奏するということはなく、ブルースナンバーの競演がほとんどだった(ただし『Outside Woman Blues』はクリームの作品にも収録)。これは予想できたことであり、かつこれでいいと思った。セッション本編は『Wee Wee Baby』で終了したが、アンコールもあって、オーラスは『I Want To Take You Higher』だった。スライ&ザ・ファミリー・ストーンの曲だそうだ。終了後、バックのスクリーンに日の丸が映し出される中、メンバーが横一列になって礼をした。ジェフはいち早くステージを後にしようとしていて、それをクラプトンが呼び止めて列に加えようとするさまが微笑ましかった。夢のような時間が、あっという間に過ぎ去った。
この日会場に集まった人は、ジェフ・ベックを聴く人、エリック・クラプトンを聴く人、両者とも聴く人、と、大きく3つのパターンに分類できたのではないかと思っている。私は両方聴いていてどちらのライヴにも足を運んでいるクチだが、今回の競演をとても楽しめた。その一方で、ジェフファンの目にはクラプトンが、クラプトンファンの目にはジェフが、どのように映ったのかが興味深い。2人は共にヤードバーズ出身という共通項こそあるが、少なくとも現在はギタリストとしてのあり方がまるで異なっていて、そのコントラストがまた面白かった。これが日本で「世界初」として実現したことを嬉しく思うのだが、これが今回きりなのか、それとも今後世界各地で断続的に起こりうるのかというのにも注目だ。
(2009.3.3.)
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