椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常@神奈川県民ホール
椎名林檎のライヴを観るのはいつ以来だろうと振り返り、2018年の「(生)林檎博」以来と気づく。コロナ禍があったとはいえ、約5年ぶりとは正直意外に感じた。もっとも、この間も彼女は東京事変や他アーティストへの曲提供などで活動を続けていたので、不在感はない。
ほぼ定刻に客電が落ち、SEのヴォリュームが上がる。ステージは幕でおおわれていて、十字の部分が模様ではなく実は隙間だった。ステージがチラ見できる状態で、『あの世の門』でスタート。向かって右上部から黒の細長い幕が垂れていて、椎名林檎が歌う英語詞の和訳が字幕として表示されていた。
続くは林原めぐみに提供した『我れは梔子』のセルフカヴァーで、ここで幕が落ちてステージがオープンになる。中央前方で歌う林檎は、ピンクのドレッド風ヘアピースをつけ、カーキ色のカジュアルな衣装に、ワッペンをたくさんつけたバッグをたすき掛けしていた(この後も数回衣装替えした)。
今回のバンドは5人で、向かって右にギター名越由貴夫、ベース鳥越啓介、ドラム石若駿。左には、アコーディオンの佐藤芳明とピアノの林正樹だ。ベースとドラムのリズム隊が強力な一方、5人中ふたりが鍵盤というのは、役割分担されているとはいえ、かなり珍しいと思う。メンバー紹介は、『JLOO5便で』の映像でさらっとされていた。
その映像だが、なんと曲によってはダンサーの踊りを組み込んでいて、これはありそうでなかったアイディアだ。ホール会場ではステージの広さに限りがあるが、それをうまくクリアした格好だ。『神様、仏様』では、向井秀徳の箇所は歌詞を表示させていた。『意識』では、Daokoがモデルとして登場。豪華だ。映像がない曲のときは、扇子のオブジェに切り替わっていた。
中盤、林檎ひとりだけでのピアノ弾き語りの『同じ夜』。ライヴで披露するのは、果たしていつ以来のことだろう。個人的には、はじめて彼女を観た24年前の99年渋谷クアトロでの演奏が頭をよぎった。続く『人生は夢だらけ』では、終盤での林檎の熱唱が場内をねじ伏せた。この日の、ハイライトだったかもしれない。
入場時に配布されたフライヤーは、5月リリース予定の新曲『私は猫の目』の案内だった。ライヴでも披露され、映像にはかつて林檎やマドンナのダンサーも務めたことのあるBANBIが、映像にフィーチャーされていた。そして、バングルス『eternal flame』のカヴァーも披露。デビュー時は結構洋楽カヴァーをやっていたので、久々だなと思いつつ、元ネタも知っていたので嬉しくなった。
終盤、『長く短い祭』のとき、スクリーンにて3Dメガネをかけるようにというアナウンスがされる。手旗とセットでグッズ販売されていて、かけてみると林檎マークがステージに被さって見えた。東京事変の『緑酒』の最中に、スタッフが林檎にギターを渡す。そのままメドレーで『NIPPON』となり、このときはハンディ(といいつつかなり大きめだったが)のキーボードを弾く佐藤と鳥越が、ステージ前方に足を進めていた。バンド全員が総力を注いで演奏力を押し上げる瞬間は、何度観ても圧巻だ。
アンコールは、『母国情緒』を経てスローの『ありあまる富』。林檎は自身のパートを終えるとステージを後にし、4人でのアウトロがしばし続行。やがてバンドメンバーもひとりずつ去っていき、名越が最後の最後までギターを弾いた。そして映像が始まり、ファミコンテイストで本ツアーのテーマである「諸行無常」にかかるメッセージが出された。エンディングクレジットでは、バンドだけでなくスタッフ全員を紹介。中華街やランドマークタワーも描かれ、つまり横浜仕様になっていた。ここは、公演地毎にカスタマイズされているのだろう。
セットリスト
1. あの世の門
2. 我れは梔子
3. どん底まで
4. カリソメ乙女
5. 走れゎナンバー
6. JLOO5便で
7. 青春の続き
8. 酒と下戸
9. 意識
10. 神様、仏様
11. TOKYO
12. 天国へようこそ
13. 鶏と蛇と豚
14. 同じ夜
15. 人生は夢だらけ
16. 仏だけ徒歩
17. 私は猫の目(新曲)
18. 公然の秘密
19. 女の子は誰でも
20. eternal flame
21. いろはにほへと
22. 命の息吹き
23. いとをかし
24. 長く短い祭
25. 緑酒
26. NIPPON
アンコール
27. 母国情緒
28. ありあまる富
MCは2回で、新曲『私は猫の目』をさらっと紹介したときと、アンコールのときだ。後者では、コロナ禍を耐えて凌いだみんなに対して、どのようにセットリストを組むかをものすごく悩んだと言っていた。ベースは近年の曲だが、セルフカヴァーあり『百薬の長』バージョンありで、よく練られただけのことはあったと思う。連休明けの国際フォーラム公演にも参加する予定で、尋常ではないクオリティの高さのライヴをまた体感できるかと思うと、嬉しくてたまらない。
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