ボブ・ディラン(Bob Dylan)オーチャードホール 2016年4月25日
今回のボブ・ディランの東京公演は、先日の東京ドームシティホール以外は、すべて渋谷のオーチャードホールで行われている。その数なんと9回!武道館でも国際フォーラムでもなく、この会場で観られるのは、なんとも嬉しいことだ。
定刻の19時をわずかに過ぎたところ、客電が落ちる前にスチュ・キンボールがギターをかき鳴らしながら登場。そしてステージが暗くなり、ドラムのジョージ・リセリが陣取る。少しして、トニー・ガーニエ、チャーリー・セクストン、ドニー・ヘロン、そしてボブ・ディランが向かって右の袖からゆっくりと姿を見せる。ショウは、『Things Have Changed』でスタートだ。
ディランは、スーツは恐らく23日の公演と同じもの。インナーのシャツはグレーだった。そしてバンドは、全員明るめのブルーのスーツ姿だ(23日は白スーツだったと思う)。ディランの動きは、23日とは少し違う。マイクスタンドを前に歌うとき、両足の開きが少し大きいように見えた。曲終盤のバンド演奏のとき、体を小躍りさせていた。調子がいいのかな。
『She Belongs To Me』ではブルース・ハープを吹きこなし、ここでも場内が湧く。続く『Beyond Here Lies Nothin'』でディランはピアノにシフト。マイクスタンドは、ディランの左手側から伸びているのが見えた。椅子に腰掛けて切々と弾きながら歌うかと思えば、中腰で体を躍動させながら弾くことも。これが、この人のスタイルなのだろう。
23日のときはどうしてもディランにばかり注目してしまったが、この日はバンドメンバーも見れるだけ見た。向かって左のスチュとジョージは、ほとんどディランに視線を向けながら弾き、叩いていた。ディランのちょっとの変化にも、すぐさま対応せんとする姿勢に見えた。
一方、ディランの真後ろに陣取るトニーとチャーリーは、あまりディランを見ていなかったと思う。トニーはディランバンド歴が長く、目よりも耳でディランをフォローしているのかもしれない。チャーリーは髪が銀髪になり、サングラスをかけ、渋味を増してこれまで以上にカッコよくなっていた。デビュー時はアイドル扱いだったのにな。シューゲイザーの如くうつむき気味に弾くことが多かったが、バンドを引っ張っていたのはこの人だったかもしれない。
そして、ペダルスティールのドニーだ。オールディーズやトラディショナルに寄った曲を主軸とする今回の構成において、この人の音の貢献度は絶大だ。この人も、ディランを見ながら演奏することが多かった。曲間、他のメンバーが楽器を交換するなどのインターバルの際、場内は暗くなるのだが、このとき間延びしないよう音を発していたのが、ジョージとこの人だった。
オールディーズは個人的に敷居が高いと思っていたが、この日は演奏のアレンジがロックに寄っていて、音もラウドだった。『Pay In Blood』も『That Old Black Magic』も、じっくり聴かせるというより音で圧倒するモードになっていた。意外。そして、嬉しい。同じことの繰り返しを拒み、常に破壊と進化を追求するディランならではだ。それをロックナンバーではなく、オールディーズでもやってのけるなんて、あなたはなんて人なんだろう。
その流れで『Tangled Up In Blue』になったので、落差も違和感も感じず、むしろ自然に思えた。ディランは「ミナサーン、アリガトウ」と日本語で挨拶し、続いて英語で休憩に入ることを告げた。
そして第2部。『High Water』で幕を開け、バンドとしての一体感が一層強くなっているのを感じる。ドニーのバンジョーが、またいい味を出している。続くオールディーズも、迫力を備えて聴く側に迫ってくる。ディランが年齢なりの音楽をやっているのではなく、その向こうにある、恐らくは誰もやったことのない音楽の地に向かおうとしているのではないか。
『Early Roman Kings』は重厚感があり、23日のときはリラックスモードだった『Spirit On The Water』も、ここでは緊張感がみなぎっていた。『Scarlet Town』は、新たなる名曲を誕生させるための研磨をしているようだった。そして、『Tempest』から頭ひとつ抜け出した感のある『Long And Wasted Years』だ。60年代の『Desolation Low』の系譜にある(と個人的に感じている)、大作の雰囲気を漂わせる曲だ。
本編ラストを『Autumn Leaves』で締めくくると(ディランの歌い出しが鬼気迫っていてカッコよかった)、アンコールは必殺の『Blowin' In The Wind』。原曲はソロアコースティックだが、ここではバンドモードで、そしてドニーのバイオリンがかなりいいアクセントになっていた。
オーラスは『Love Sick』。スチュのイントロからディランのヴォーカル、チャーリーとドニーによる間奏、ジョージとトニーのリズム隊のバックアップと、ステージに立つ6人が最後に全てを結集させているかのようなパフォーマンスだ。演奏が終わり、メンバーはディランの近くに駆け寄ってくる。チャーリーも、このときはサングラスをはずしていた。スチュが他のメンバーより大柄で、音としての貢献度が抜群だったドニーは、ディランと同じくらいの身長だった。彼らは特に何を語るわけでもなかったが、みな満足気な表情を浮かべ、ステージから去っていった。
セットリスト
Act 1:
1 Things Have Changed
2 She Belongs To Me
3 Beyond Here Lies Nothin'
4 What'll I Do
5 Duquesne Whistle
6 Melancholy Mood
7 Pay In Blood
8 I'm A Fool To Want You
9 That Old Black Magic
10 Tangled Up In Blue
Act 2:
11 High Water (For Charley Patton)
12 Why Try To Change Me Now
13 Early Roman Kings
14 The Night We Called It A Day
15 Spirit On The Water
16 Scarlet Town
17 All Or Nothing At All
18 Long And Wasted Years
19 Autumn Leaves
Encore:
20 Blowin' In The Wind
21 Love Sick
ネヴァーエンディングツアーとはよく言ったもので、1988年からはじめて、今年がなんと28年目ということになる。人が生まれて成人して結婚し、子供が生まれてもおかしくないだけの歳月だ。その間、毎年100本と言われるツアーをこなし、もちろんアルバムもリリースし続けてきた。予定調和を嫌い、ファンを裏切り、ラディカルであり続けてきた。来月75歳になるディランは、北米ツアーに合わせて新譜『Fallen Angels』をリリースするとのこと。ツアーだけでなくレコーディングも含め、ディランの活動そのものがネヴァーエンディングだ。そして、今回が2年ぶりの来日だったことから、次の来日もあまり待たなくてはいいのではと期待してしまう。
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